トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~

トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~

last updateDernière mise à jour : 2026-01-13
Par:  日暮ミミ♪Complété
Langue: Japanese
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大財閥〈篠沢(しのざわ)グループ〉本社・篠沢商事に勤める25歳の桐島貢(きりしまみつぐ)。 彼は秋のある夜、上司の代理で出席した会社のパーティーで、会長令嬢で高校2年生の篠沢絢乃(しのざわあやの)に一目惚れ。 その三ヶ月後、会長・篠沢源一が末期ガンでこの世を去る。 葬儀の日、父の遺言により会長の後継者となった絢乃を支えるべく、秘書室へ転属する旨を彼女に伝える。 絢乃は無事、会長に就任。会長付秘書として働くことになった貢はある日、会社帰りの愛車の中で絢乃に衝動的にキスをしてしまい――!? 草食系男子の年上秘書×キュートな10代の大企業総帥による、年の差オフィスラブストーリーのヒーローサイド。

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Chapitre 1

プロローグ

 ――もしも「運命の出会い」というものが本当にあるのだとしたら、それは僕と彼女との出会いのことを言うのかもしれない。

 僕と彼女は八つも年齢が離れているし、生まれ育った家柄も違う。それでも出会い、恋に落ちたのだ。

 僕の名前は桐島きりしまみつぐ。銀行マンの父と、元保育士の母との間に次男として生まれた。四歳年上の兄は飲食関係で働いていて、僕自身は大手総合商社・篠沢しのざわ商事に勤めているごく一般的なサラリーマンだった。

 一方、彼女の名前は篠沢あやさん。僕が勤める会社の大元・〈篠沢グループ〉の会長を父親に、元教師で篠沢家の現当主を母親に持つ(お父さまは婿養子だったらしい)大財閥のご令嬢で、出会った当時はまだ私立の女子校に通う高校二年生だった。

 こんな一見何の接点もなさそうな僕たちが出会い、恋に落ちたのは、運命といわなければ一体何だったというのだろう? ちなみにこれだけは言っておくが、断じて逆玉を狙っていたわけではない。念のため。

 ――人間万事塞翁さいおうが馬。人生というのは、どう転ぶのかまったくもって予測がつかないものだ。僕自身も雲の上の人である彼女と出会い、恋愛関係にまでなるとは想像もしていなかった。僕のその後の運命を変えることになった、までは――。

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プロローグ
 ――もしも「運命の出会い」というものが本当にあるのだとしたら、それは僕と彼女との出会いのことを言うのかもしれない。 僕と彼女は八つも年齢が離れているし、生まれ育った家柄も違う。それでも出会い、恋に落ちたのだ。 僕の名前は桐島貢。銀行マンの父と、元保育士の母との間に次男として生まれた。四歳年上の兄は飲食関係で働いていて、僕自身は大手総合商社・篠沢商事に勤めているごく一般的なサラリーマンだった。 一方、彼女の名前は篠沢絢乃さん。僕が勤める会社の大元・〈篠沢グループ〉の会長を父親に、元教師で篠沢家の現当主を母親に持つ(お父さまは婿養子だったらしい)大財閥のご令嬢で、出会った当時はまだ私立の女子校に通う高校二年生だった。 こんな一見何の接点もなさそうな僕たちが出会い、恋に落ちたのは、運命といわなければ一体何だったというのだろう? ちなみにこれだけは言っておくが、断じて逆玉を狙っていたわけではない。念のため。 ――人間万事塞翁が馬。人生というのは、どう転ぶのかまったくもって予測がつかないものだ。僕自身も雲の上の人である彼女と出会い、恋愛関係にまでなるとは想像もしていなかった。僕のその後の運命を変えることになった、あの夜までは――。
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エピソード0:僕の過去 PAGE1
 ――その前に、僕の過去の話をしようと思う。過去に恋愛で負った、深い心の傷の話だ。 そのことがあって、僕は絢乃さんに出会うまでハッキリ言って女性不信に陥っていた。もう恋愛なんてまっぴらゴメンだと思っていたのだ。 今から二年くらい前になるだろうか。僕は一人の女性と交際していた。それを〝恋愛〟のカテゴリーに当てはめるかどうかは微妙なところだが。 彼女は僕の同期入社組で、一緒に総務課に配属された仲間のうちの一人だった。ちなみに同期のほとんどは二年目から三年目の途中で辞めてしまい、今も総務課に残っているのは久保人くらいのものだろう。……それはさておき。 僕は彼女に好意を持っていた。そして、彼女はそれに見合うくらい魅力的な女性だったので(絢乃さんに比べれば〝月とスッポン〟だが。ちなみに絢乃さんが月である)、そりゃあもう男にモテていた。そんな彼女から見れば、僕なんて不特定多数のうちの一人に過ぎなかっただろう。「……なあ久保。俺にワンチャンあると思うか? 日比野と」 僕は同期の中でいちばん親しかった久保とよくそんな話をしていた。僕が好意を寄せていた相手は日比野美咲という名前だった。「さぁ、どうだろうな。あいつにとっちゃ、男なんて誰でも一緒だろ。なんかさぁ、すでに彼氏がいるらしいってウワサもあるし」「えっ、マジ!? 相手、この会社のヤツか?」「いや、社外の人間。合コンで知り合ったらしくてさ、どっかの大会社の御曹司らしいって」「えーーー……、マジかよぉ。それじゃ俺にチャンスなんかないじゃんか」 僕はそのことを聞いた時、とてつもない絶望感に襲われた。その当時で、もう大学時代から彼女いない歴四年を数えていたので、そろそろ次の春よ来い! な心境だったのだ。「まぁまぁ、桐島。そんなに落ち込むなって。お前はまだいいよ。お父さん、銀行の支店長だろ?  確かメガバンクだっけ」「あーうん、そうだけど。それがどうした」「そこそこ裕福な家に育ってるじゃん? 自家用車で通勤してんだろ?」「……ああ、まぁな。だから何だよ」 何だか意味の分からない質問ばかり重ねてくる同期に、僕はしびれを切らした。 まぁ、マイカー通勤をしていたのは間違いないのだが、学生
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エピソード0:僕の過去 PAGE2
「……あのなぁ、久保。さっきお前が言ったんだぞ。日比野は彼氏持ちらしい、って。それで、なんで俺にもワンチャンあることになるんだよ? もう振られる以前にさ、告る前から失恋確定してるじゃんか」 たったの一分ほどで言うことをコロッと変えた友人に、僕は呆れるしかなかった。コイツは僕が真剣に悩んでいるのに、他人事にしか思っていないんじゃないだろうか、と。「いやいや、分かんねぇよ? 本命の彼氏は事情があって公にできねぇから、お前をカモフラージュにするって可能性もないわけじゃねぇだろ? んで、アイツのことが好きで、そろそろ彼女ほしいなーって思ってるお前は、どんな形であれアイツと付き合えるわけだ。これでウィンウィンじゃね?」「〝ウィンウィン〟って、あのなぁ……」 あくまで都合のいい持論を(誰にかというと、久保自身というより僕に、なんだろうが)展開する彼に、僕は絶句しつつもついつい納得してしまうのだった。  確かに、僕はその頃本気で彼女がほしいと思っていた。学生時代の同級生が結婚ラッシュで、焦っていたせいもあるのかもしれない。そして、もしも彼女ができたらその相手は結婚相手になるんだろうと漠然と思ってもいた。だから、本当なら本命の相手がいる日比野美咲がその対象となることはなかったはずなのだが……。 男にはそういうところがあるのだ。たとえ相手に好かれていなかったとしても、一旦付き合い始めればこっちのもの、という気持ちが。それは当然のことながら、僕自身も例外ではなかった。とにかく、「彼女ができた」というちっぽけなプライドさえ満たせれば、相手がたとえ彼氏持ちだろうと僕には関係ない、という気持ちがあったということだ。 ……今にして思えば、それは彼女にただからかわれていただけだったのだが。「――ねぇねぇ、二人で何話してるのー?」 そこへ、ウワサをされていたご本人が乱入してきた。 篠沢商事に制服というものはなく、女性は基本的にオフィスカジュアルでも大丈夫なので、彼女は切込みの深いVネックのニットを着ていた。グラマーな彼女がかがむようにして僕たちの顔を覗き込んでいたので、僕は少々目のやり場に困った。「……いや別に、野郎同士の話を少々。なっ、桐島?」「ああ……、うん、まぁそんなところかな」 その時はすでに終業時間を過ぎ、いわゆる〝アフター|5《ファ
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エピソード0:僕の過去 PAGE3
 何だか思わせぶりに、僕の予定を訊いてきた彼女。男なら期待しないわけがなかった。ましてや、その相手が意中の人ならば。「よかった☆ じゃあ、ちょっとあたしに付き合ってくれない? 一緒にゴハン行こ。あたし奢るから」「え…………。あー、うん。別にいいけど」「あ、オレは遠慮しとくわ。お二人でどーぞ☆」「……………………はぁっ!? ちょっと待て! 久保っ!?」 僕は困惑した。久保も交えて三人なら、僕も一緒に食事くらいは大丈夫だと思ったのだが。いきなり二人きりはハードルが高すぎる。「ままま、キリちゃん。よかったじゃんよ、彼女の方から誘ってもらえて。お前から誘う勇気なんかなかったべ? これは降ってわいたチャンスだべ。行ってこい!」 そんな僕の肩をひっつかみ、久保が出身地である千葉の言い回しで囁いた。というか、「キリちゃん」なんて気持ち悪い呼び方するな! お前、そんな呼び方したことないだろ!「お前だって、それでもいいって思ってたべ?」「……………………あー、まぁ。そりゃあ……な」 なまじ図星だっただけに、否定できないところが悲しかった。「ほら、行ってこい!」 彼に肩をポンポン叩かれ、僕は彼女との夕食に臨んだのだったが――。「――で、なんで俺のこと誘ったんだよ?」 彼女と二人で焼肉をつつき合いながら(色気ないな……)、僕は首を傾げた。「あのさぁ、桐島くん。あたしたち、付き合わない?」「……………………は? 今なんて?」「だからぁ、『付き合おう』って言ったんだよ。――あ、ここのハラミ美味しい♪」「…………」 何の気なしに言い、無邪気に肉を頬張る彼女を僕は呆気に取られながら見据えた。「だってお前、彼氏いるんじゃ……。どっかの会社の御曹司だっていう」「うん、いるよ。でもさぁ、彼氏って何人いてもよくない? もしかしたら、その中で桐島くんが本命に昇格するかもしれないじゃん?」「…………はぁ」 よくもまぁ、そんな小悪魔ちゃん発言をいけしゃあしゃあと。――今の僕ならそう言えたかもしれないが、その当時の僕には言えなかった。少し期待していたからだ。「あたし、桐島くんとは相性めちゃめちゃいいと思うんだよね。桐島くんもあたしに気があるんでしょ? だったら、そっちにも損はないと思うな」  ――という言葉にまんまと乗せられ、僕は日比野
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE1
 ――それ以来、僕は女性不信に陥り、結婚どころか恋愛そのものが怖くなった。のちに絢乃さんに言った、「もう何年も恋愛から遠ざかっている」というのは、日比野美咲とのことを僕自身の中で〝恋愛〟としてカウントしていないからだ。 それを働いている部署で上司からパワハラを受けているせいにして、僕は完全に色恋沙汰から逃げていた。実は他の部署、特に秘書室のお姉さま方からモテていたらしいのだが、はっきり言って迷惑だった。「僕に構わないでくれ」とどれだけ声に出して言いたかったことか。 でも、そんな僕にも天使が舞い降りた。それが、篠沢グループ会長の一人娘・絢乃さんに他ならなかった。   * * * * ――その日は当時の篠沢グループ総帥にして、絢乃さんのお父さま、篠沢源一会長の四十五歳のお誕生日で、夕方から篠沢商事本社ビル二階の大ホールで「篠沢会長のお誕生日を祝う会」が行われることになっていた。グループ全体の役員や各社の幹部クラス、管理職の人たちが招待されるかなり規模の大きなパーティーだった。 僕が所属していた総務課は朝から会場設営やら打ち合わせやらで忙しく、それが終われば通常業務が待っていて、僕も例外なく仕事に追われていたのだが……。「――桐島君、ちょっといいかな」「は……、はいっ!」 島谷課長に呼ばれ、デスクのPCに向かって仕事をしていた僕はビクッと飛び上がった。 この上司は僕が入社二年目に入った年に課長に昇進したのだが、それ以来ずっと、僕は彼から何かとこき使われ続けていた。 いや、彼の犠牲になっていたのは僕ひとりだけではない。後になって分かったことだが、総務課の社員のうち実に九割が被害に遭っていたらしい。原因こそ分らなかったが、突然休職したり退職した先輩や同僚を僕は何人も知っている。 それはともかく、僕はその頃島谷氏にとって格好のターゲットとなっていた。彼の抱えている仕事を押しつけられ、無理矢理残業させられることなんて日常茶飯事。それで残業手当でも付けてもらえれば文句はないのだが、残念ながらそれらの残業はすべてサービス残業扱いにされ、しかもすべて課長の手柄にされた。そのくせ、自分のミスは僕に押しつけてくるのでたまったもんじゃなかった。 ……まぁ、断れない僕にも問題はあったのだろうが。 その課長に呼ばれ
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE2
「……………………は? 課長、今何とおっしゃいました?」 課長の言葉に、僕は自分の耳を疑った。残業ではないが、いくら何でもそれは押しつけが過ぎやしないだろうか。「だから、私の代理で今夜のパーティーに出てくれと言っとるんだ。頼む」「…………いえ、あの……。それはいくら何でも……」「断るのか? 上司である私の頼みを。君は断れんよなぁ?」「…………えーと。都合が悪いとおっしゃるのは」 もう半分以上は脅しになっていた課長の威圧感に、僕はタジタジになった。「ちょっと、たまには家族サービスをな」「…………はぁ」 ウソつけ、本当はゴルフの打ちっぱなしだろ! と内心毒づきながら、僕は引きつった笑いを浮かべた。何だか納得がいかない。 課長がゴルフにハマっていたことは、総務課の人間なら誰でも知っていたが、「家族サービス」とウソをついてまで会長のお誕生日よりも自分の趣味を優先するなんて一体どういう神経をしているんだ? とはいえ、僕が折れないことにはこの話は終わらなかったので。「…………分りました。僕でよければ代理を務めさせて頂きます」「そうかそうか! じゃあ頼んだよ、桐島君。会長によろしくお伝えしてくれたまえ」「……………………はい……」 僕が渋々承諾すると、課長は満足げに僕の肩をバシバシ叩いた。どうでもいいが、ものすごく痛かった。「――お前、なんで断んなかったんだよ?」 自分の席に戻ると、隣の席から久保が呆れたように僕に訊ねた。「俺に断れると思うか? つうか、そんなこと言うならお前が代わりに行ってくれよ」「そう思うならさぁ、お前もオレに助け船求めりゃよかったじゃん。――まぁ、求められたところでオレなら断ったけどな」「なんで? 彼女とデートか?」 久保が彼女持ちだと知っていた僕は、思いつく理由をぶつけてみた。 彼も僕と同じく女子からモテていたのだが、それを迷惑に思っていた僕とは対照的に、彼はそのことを自慢にしていた。彼女は確か、ウチの営業事務の女子じゃなかっただろうか。「おう。帰り、一緒にメシ行くことになってんだ♪ お前もさぁ、いい加減新しい彼女作れよ。そしたら人生楽しくなるし、課長からの無理難題も回避できるべ?」「……もういい。お前には頼まねーよ」 この時の僕は、出たくもないパーティーに強制出席させられることにただただウンザリしていた
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE3
   * * * * 僕は課長から押し付けられていた残業を三十分ほどで片付け(多少おざなりにはなってしまったが、課長もパーティーの代理出席を押し付けた手前咎めることはなかった)、会社近くのカフェでパーティー開始時刻の六時まで時間を潰した。 そして夕方六時、会社に戻った僕は課長から預かった招待状で受付を済ませ(同じ総務課の同僚が受付に立っていたので、「代理出席ご苦労さん」と苦笑いされた)、会場入りしたのだが……。「……俺、めちゃめちゃ場違いじゃん」 乾杯の音頭から一時間半。この呟きをもう何度繰り返したことだろう。 自分でも会場内で浮いている自覚はあったし、クルマ通勤している手前、アルコールを飲むわけにもいかなかったので(そもそも僕はアルコールが苦手であまり飲めないのだが)、上役から勧められる酒を断るたびに肩身の狭さが増していった。 ビュッフェに並べられた豪華な料理で食事も済ませたが、あまり食べた気がしなかった。「……帰りにコンビニで何か買って帰るか」 さて、夜食は何にしようかなんてことをボンヤリ考えていた時だった。ふと鼻先を爽やかな柑橘系の香りがかすめ、一人の若い女性が僕の目の前を通りすぎたのは。 ――それが、絢乃さんだった。「誰だろう、あのコ。可愛い……」 僕は思わず彼女に見とれてしまった。フワフワにカールさせた茶色みがかったロングヘアー、上品なスモーキーピンクの膝下丈ドレスの上から白いジャケットを羽織り、おそらくは履きなれていないだろうハイヒールの靴で、速足に歩いていた。その様子から、誰かを探しているのだろうと予想がついた。ヒールの高さから正確な身長までは測れなかったが、百六十センチもないだろうとは思った。 もっとよく見てみれば、八の字に下がった形のいい両眉、クッキリ二重の大きな目に長い睫毛、大きすぎずスッと筋の通った鼻に、ピンク色のグロスで彩られたまだ幼さの残る唇……。まさに〝天使〟そのものの顔立ちをしている。 ――と彼女のことをまじまじ眺めていたら、不意に目が合ってしまった。あまりにも熱心に見つめていたから気を悪くされてしまっただろうか? ところが、目が合ったという気まずさは彼女も同じだったようで(後で知ったのだが、彼女の方も僕の顔を見つめていたらしい)、ごまかすようにニコリと笑いながらペコリと
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE4
 僕はこの瞬間、絢乃さんに一目ぼれしたのだ。まだどこの誰なのかも分からずに――。 たったの数ヶ月前、あんなひどい仕打ちに遭ったのに。「もう恋なんてしない」と心に誓ったことさえなかったことになるくらい、ごく自然に彼女に惹かれた。「――ねぇ、そこのあなた。さっきウチの絢乃と見つめ合っていなかった?」「…………ぅおっ!? は、はいぃぃっ!?」 後ろから落ち着いた女性の声がして、僕は思わず飛びずさった。……ん? 待てよ。今、「ウチの絢乃」って言わなかったか、この人?「あ……、奥さまでしたか。取り乱してしまって申し訳ありません。僕は篠沢商事総務課の、桐島貢と申します」 僕に声をかけてきたのは篠沢会長の奥さま、加奈子さんだった。「奥さま」とはいっても彼女が実質篠沢財閥のドンで、会長が婿養子だったというのは社内でも有名な話だったのだが。「あら、あなた社員だったの。桐島くんね。――上司の島谷さんは? 姿が見えないようだけど」「ああ、実は僕、課長の代理なんです。島谷は今日、急に都合が悪くなったとかで……」 あんな人でも上司だったので、僕は彼の顔を潰さないよう上手く言い繕った。「あらそう。宮仕えも大変ねぇ。まぁ、ウチの夫も結婚前はそうだったから、私も気持ちはよぉーーく分かるわ。サラリーマンって大変よねー」「…………はぁ。――ところで、先ほど『ウチの絢乃』とおっしゃっていませんでした?」「ええ。さっきの子、私とあの人の娘なの。名前は絢乃。今十七歳。私立茗桜女子の二年生よ」「へぇ……、高校生なんですか。大人っぽいですね」 絢乃さんがまだ高校生だったと聞いて、僕は驚きを隠せなかった。服装や髪型、メイクのせいだろうか。それとも彼女の持つ雰囲気のせいだろうか。実年齢よりずっと大人に見えていたのだ。「そうよー、まだ未成年。だからたぶらかしちゃダメよ」「しませんよ、そんなこと!」 僕は相手が会長夫人だということも忘れて吠えた。恋愛にトラウマを持つ人間がそんなことをするわけがないじゃないか!「でも、あの子に一目ぼれしたでしょう? あなた」「……………………」 それは思いっきり図星だった。そんな僕の反応をご覧になって、加奈子夫人は楽しそうにニヤニヤ笑った。「ところで、あなたお酒は飲まないの?」 彼女は僕が手にして
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE5
 僕がそう答えた次の瞬間、加奈子夫人はイタズラっぽい笑みを浮かべた。「あら、ちょうどよかった。それじゃあ桐島くん、今日の帰り、絢乃をあなたのクルマで家まで送ってきてくれないかしら? あの子も若い男の人と接点がなかったから、あなたに送ってもらった方が嬉しいと思うのよ」「え……。えっと」 元々断り下手な僕は、引き受けたとて自分に何のメリットもない島谷課長の雑用も断れずにいた。が、この頼まれごとは僕にもメリットがある。絢乃さんとお近づきになれるというメリットが。「分りました。僕でよければお引き受けします」「本当に? ありがとう。ただし、あの子のことお持ち帰りしちゃダメよ」「ですから、しませんってば」 からかう加奈子夫人を、僕は必死に牽制した。僕たちの会話を絢乃さんに聞かれたらどうなることかとヒヤヒヤしていたのだ。……実は、少し離れたところからバッチリ見られていたらしいのだが。「――ところで、絢乃さんは一体どなたを探していらっしゃったんでしょうか。ずいぶん焦っていらっしゃったみたいですが」 彼女の視線があちこちをさまよっていたように見えたので、僕は気になっていたのだ。「ああ、きっと夫を探してるのね。あの人、パーティーの途中でフラッといなくなっちゃったから。あの人がこのごろ激痩せしてること、あなたも知ってるでしょ? だからあの子も心配してて」「ええ、僕も存じていますし、社員のみんなも心配しております」 それはもちろんウソでもホラでもなく、事実だった。源一会長の痩せ方が文字どおりあまりにも病的だったので、昼休みの社員食堂ではその話題があちこちで飛び交っていたのだ。「私は多分、あの人何かの病気なんじゃないかと思ってるんだけど。とにかく大の病院嫌いでね、どれだけ勧めても行きたがらないのよ。だからって、首にリードつけて引っぱって行くわけにもいかないじゃない? 犬じゃあるまいし」「……確かに」 僕は思わず、大型犬になった源一会長が加奈子さんにリードで引っぱられて病院へ連れていかれるところを想像してしまった。これじゃまるで、お散歩をイヤがるワンコだ。 という話をしていると、加奈子さんがバーカウンターに目をやったところで「あ」と小さく呟いた。「あの人、あんなところにいた。絢乃が先に見つけてたみたい。――じゃあ桐島くん、さっきのこと、
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僕に天使が舞い降りた日 PAGE6
 後ろからポンと肩を叩かれ、振り向くとそこに立っていたのはセミロングの髪にウェーブをかけた、パンツスーツ姿の女性だった。 こういう席で、女性がビジネススーツ姿でいると目立つ。加奈子夫人でさえ、ドレッシーないで立ちをしていたというのに。「小川先輩! お疲れさまです」 彼女は会長秘書を務めていた小川夏希さん。僕の二つ年上で、同じ大学の二年先輩だった。 なかなかの美女で面倒見もいいが、色気はあまりない。ノリが体育会系なせいだろうか。そして僕も、彼女を恋愛対象として意識したことはまったくない。「あ、分かった。また島谷さんの嫌がらせでしょ! あの人にも困ったもんだよね」「…………あー、はい」 またもや図星を衝かれ(今度は小川先輩にだ)、僕はコメカミをボリボリ掻いた。「桐島くんもさぁ、イヤなら断ればいいのに。ホイホイ言いなりになってるから向こうもつけあがるんだよ」「そりゃ、俺も分かってますけど。上司の頼みをむざむざ断れます? 会社でのポジションにも関わるかもしれないんですよ?」「そんなの関係なくない? あの人みたいなイチ中間管理職に、人事に口出す権限ないでしょ。それは意思の弱い桐島くんが悪いよ。あたしなら絶対に断るね」「そんな身もフタもない……」 バッサリと一刀両断され、僕はかなりヘコんだ。自分の意思の弱さは、僕自身がいちばん痛感させられているけども。思いっきり急所を衝いてこなくてもいいじゃないか!「でもまぁ、引き受けちゃったもんはしょうがないよねー。今日は開き直ってパーティー楽しんじゃいなよ。タダで美味しいものいっぱい食べられるって思えばさ」「……そういう先輩は食べる気満々ですよね」 歌うように言った先輩に僕は呆れた。彼女が持つプレートの上には、載せうる限りの料理がこれでもか! と盛られていたのだ。「先輩、仕事はいいんですか? 会長の付き添いでここにいるんですよね?」「いいのいいの☆ 『小川君も私のことはいいから、このパーティーを思う存分楽しみなさい』って会長がおっしゃったんだもん」「へぇ、そうなんですか……」「それにね、あれ見てたらさ。あたしの出る幕なさそうじゃない?」 先輩は篠沢家の親子水入らずの光景を、どこか切なそうに見つめていた。
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